何重もの糸に通じる数々の思い -刺繍作家・いとしごとselahインタビュー
オノベカといとしごとselahの堀聖羅さんとの出会いは2016年。
毎週火曜のオノベカ市が始まったころ、最初の出店者として参加してくださいました。
一針一針刺してできあがったであろう刺繍のイヤリングやブローチはぬくもりのある作品でした。
7/22に実施するワークショップを前に、堀聖羅さんへインタビューを行いました。
–堀さんはいつから刺繍をやっているんですか?
もともと自分でものを作るのがすきで、昔から興味はありましたが、実際には作っていませんでした。2011年に東日本大震災が起きて、それまで持っていた価値観が大きく変わりました。自分の生活の仕方や生き方に疑問を持ち始めたんです。自分が食べているものや使っているものがどこから来てどこへ行くのか、そういうことを意識した生活をしたいと思うようになりました。お金もものもすべて流されてしまうのを想像して、何もなくなったときに自分自身で生きていく力が必要だと感じ、手に職を持たなきゃ!と思ったこともきっかけとなり、手作りのものに興味を持ち始めました。当時、タイミングよくハニーミカさん(※)の作品に出会い、リサイクルの布を使ってものづくりをしていることに大きな衝撃を受けました。その出会いをきっかけに、自分も素材にこだわったものづくりができるかもしれないと思い始め、本格的に刺繍を始めたのは2012年ころです。そのころ、知人の展覧会があって、「会場に作品を置かせてもらったら?」と言われ、たまたま作品を置かせてもらったのをきっかけに、様々な催事に参加させて頂いたり、刺繍の講師を勤めるようになりました。
※ハニーミカ リメイクアーティスト。リサイクル品を使って、オリジナリティあふれる服を作り、道内各地で展示会を開いている。
–刺繍をするときはどんなことを考えていますか?
わたしは学生時代、グラフィックデザインを学ぶために専門学校に通っていました。そのときに、イラストを指導してくれた先生が「一本の線でも“雑な線”と“気持ちを込めた線”では伝わるものが違う」とお話をしてくれたんです。でもいざ自分で意識して描いてみても、その線が想いの伝わる線なのかがわからない。その先生の言葉がずっと頭に残っていて、刺繍なら何針も何針も糸を運んで、物理的にも時間がかかるし、気持ちのこもった線が描けるんじゃないかと思って刺繍をしています。実際に今わたしが想いの伝わる線を縫えているのかは、まだわからないのですが…(笑)
–刺繍のよさってなんでしょうか?
一つの作品を作り上げるにも、何重にも糸を重ねる、怨念(笑)にも似た哲学を感じます。出来上がるのは一つの面ですが、そこには何重もの糸を通して数々の思いがあると思います。わたし自身刺繍をしながら、色々と考えさせられます。
–堀さんの作品といえば、草木染やフェアトレードビーズを使っていることが特徴の一つですよね。そういう素材を使っているのはなぜですか?
母がオーガニック製品を扱ったカフェをしていて、そういうもののおいしさを幼い頃から体感していました。おいしくて、地球や作っている人、自分に対しても悪い循環をもたらさないものはなんとなく「いいな」と感じてました。高校生のときにアースカバーさん(※)でフェアトレードのものを自分で買うようになり、搾取や労働についても考えるようになりました。
※アースカバー 当時北24条にあったフェアトレード製品のお店。
–これからどんな作品を作っていきたいですか?
作品作りのスタンスとしては、やらなきゃいけないことに追われるのではなくて、自分のやりたいことを追いながら納得のいく作品作りをしていきたいです。作風に関しては、これまでは暮らしや草花などの自然モチーフを好んで作っていましたが、今はそれに加えて抽象的なデザインに興味があります。自然界に共通するパターンを自分なりのテイストに落とし込んだ作品を作りたいです。
さらには、それを表現するための作品を「造る」という行為が、知らない間にひとや暮らし・地球を「傷つける、壊す」ことに繋がるのは、とても矛盾を感じるので、無理なく続けられる程度に素材にこだわるようにしています。これからは、ますますオーガニックやフェアトレードビーズなどのフェアトレード素材、草木染の素材の比率を増やしていきたいと思っています。
堀さん、ありがとうございました!
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